へっこき馬
創作民話 むかし福生十三話「へっこき馬」
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                          むかし、福生と羽村の 村ざかいに、松吉という ばくろうが、青という馬と くらしていました。青は、ブースカ ブースカ、おならばかりするので、「へっこき馬」と いわれて、人にきらわれていました。 でも、ほんとうは とてもりこうな馬でした。 松吉が たぬきにだまされて、こえだめを おふろとまちがえて はいったところを、ひきずりあげてくれたのも 青でした。きつねにだまされて、みみずのおそばを くわされそうになったのを、足で けおとしてくれたのも 青でした。むじなにだまされて、白い花のそば畑を、上水だとおもって はだかになって わたろうとしたのを、しっぽでたたいて 目をさまさせたのも 青でした。だから 松吉は、青には あたまが あがりませんでした。 
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                          ある日、松吉は、江戸まで 三とうの わか馬をうりに、青にのって でかけました。三とうとも すぐにうれたので、ガッポリ もうかりました。 松吉は、お金を、はらかけの どんぶりにしまって、かえりを いそぎましたが、田無のあたりで すっかり 日がくれてしまいました。 「なあ青。このさき どっかで、おいはぎがでたら てぇへんだ。ここらで とまるべよ」 みると、村はずれにしては りっぱな、「ばくろう宿」と、かかれた 宿やが ありました。 
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                        女中につれられて、二かいにとおされた 松吉は、となりのへやの、あまりのにぎやかさに、そっと のぞいてみました。そこでは、四人のばくろうたちが 酒をのみながら、サイコロばくちを していました。それぞれのまえには、こばんが つんでありました。 「ふーん、この人たちは、よっぽど もうかったんだべょ」 松吉が 目をまるくしていると、 「おや、おとなりさん。そんなとこにいねぇで、いっしょにどうだい」 と、なかの一人が、のぞきみしている 松吉にいいました。 「い、いや、おら、とんでもねぇ」 松吉は、あわてて ことわりました。はらかけのお金は、あたらしい馬やえさを かうためのものです。 
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                          「まあ、そういわねぇで、こっちにきなよ。はらかけが、おもそうだぜ」 「いや、そんな…」 「じゃ、こばん 一まいだけってのは どうだい。まけたら、それっきりにしな。ひょっとして、一まいが十まいに なるかもしれんぞ」 みんなに わいわい いわれて、松吉は、一まいだけ やってみることにしました。 ところが、やりだすと おもしろくなり、あり金ぜんぶだして、むちゅうになりました。 
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                        かったり まけたり しているうちに、夜もふけてきました。 「松吉どん、ずいぶん もうけたなあ。こっちは大まけで、ざんねんだが、夜もおそいし そろそろ おひらきにすべぇ」 と、としよりのばくろうが いいました。 松吉は、目のまえのこばんをみて、びっくりしました。 「これが おらのぶんかえ。もち金の三ばいにも なったべさ。これなら、馬の二十とうも かえそうだ。なんだか かちにげみてぇで、わりぃな」 「いいともさ。いやはや ついてる人にゃ、かなわねぇ」 みんなに うらやましがられて 松吉は、ニコニコがおで、そのこばんを はらかけどんぶりにいれ、じぶんのへやへもどりました。 
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                        よく朝、目をさまして びっくりぎょうてん。高くつみあげた たいひわらの上で、はらかけに どっさり木のはをつめて、ねていました。 「ちきしょうめ、またやられた。青、青はどこだっ」 青は、あの女中にやられたのか、かきの木に しばられていました。 「だいじなお金を、みんなとられちゃった。どうすべぇ」 松吉は、青のくびに だきついて、オイオイ なきました。なわをとかれた青は、松吉にかまわず、とっとと 狭山の森へむかって あるきだしました。おいかけていくと、森のなかに、ちいさなほらあなが ありました。 なかをのぞくと、たぬきが五ひき、こばんをまんなかにして 酒もりをしていました。 「あっ、あんちくしょうどもだ」 
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                          あなに もぐりこもうとする 松吉を、青は口でひきもどし、クルリ、と うしろをむき、たぬきのあなに おしりを くっつけました。 そして、 ブーッ と、一ぱつ、大きな おならをしました。 「そうか、どくガスぜめに しようってわけか」 松吉は、すぐさま 大きな石で、あなをふさぎました。 しばらくして 石をはずすと、五ひきのたぬきは、目をまわして ひっくりかえっていました。松吉は、まだ においのたちこめている あなにもぐりこみ、とられたこばんを とりかえしついでに、たぬきのお金も かっさらってきました。 
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                        「あぁ、くせぇくせぇ。おめぇのへは、ほんとに くせぇな」 そういいながらも、松吉は大よろこびで、青にまたがり、玉川上水までかえってきました。 橋を わたったところで、青はたちどまりました。うしろから、だれかが おいかけてくる ようすです。 ふりかえってみると、あのときの ばくろうたちです。 「やや、ばけだぬきどもめ、もう目がさめたか」 もう、家へ てっぽうをとりにいくひまはありません。 
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                        ばくろうたちが、ドカドカと、橋を わたりかけたとたん、青はおしりをむけて、おもいきり、 ブォーッ、ブォーッ と、二はつ、橋をめがけて ぶっぱなしました。 橋は、メリメリッ、ドドッと、ふっとび、化けのかわのはげた たぬきたちは、空たかく とばされていきました。 松吉は、たぬきから せしめたお金で、馬が五とうも ならんでとおれる、りっぱな橋を かけたので、村人たちは「ばくろう橋」となづけて、よろこびあいました。 それからは、だれも 青のことを、「へっこき馬」とは いわなくなり、松吉と青は、いつまでも なかよくくらした、ということです。 
お母様へ
●馬喰橋
玉川上水の新掘ができる前の、古川にありました。少し場所はずれますが、馬喰橋→金比羅橋→神明橋→新掘橋、と変わってきました。