酒とからす天狗

創作民話 むかし福生

第四話「酒とからす天狗」

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    むかし、熊川の 名主どんの家に、久作という、はたらきものの てつだいがいました。


    ある夏の日、とおくまで 用たしにいって、牛浜のわたしまで かえってくるころには、とっぷりと 日がくれてしまいました。


    久作は、あるきつかれて のどはカラカラ。がけの下に、つめたい清水がわいているのを おもいだして、やぶを かきわけていきました。

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    すると、清水のあるあたりから、ひくいダミ声が きこえてきました。

    久作は、そばにある、大きな けやきのかげから、そっとのぞいてみると、せなかに羽のある 口ばしのとんがった からす天狗が、

    「ささら ほうさら くるくるぱっぱの カァ」

    と、いっては、清水を のんでいました。

    久作が、いきをとめて みていると、からす天狗は、かおを 口ばしまで まっ赤にして、ユラユラ たちあがりました。


    「さあて、ねるとするか。せっちき くらのき ごうたらぞい。ホレ、カァカァのカァ」


    羽をひらひらさせ、へんなうたをうたいながら、どこかへ いってしまいました。

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    久作は、しばらくしてから、そろそろと はいだしてきて、清水に かおをつけて、ゴックンゴックンと のみました。

    「ふぅっ、うめぇ。生きけぇるようだ」

    一いきした久作は、天狗の へんてこなじゅもんを おもいだしました。

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    「えーと、なんとかいったな。たしか ささらほうさら くるくるぱっぱのカァ、だったべな」

    そして、水を すくって のんでみました。すると、清水がなんと 酒にかわっていました。

    久作は、いままで 酒をのんだことが なかったので、びっくりしました。

    「ひやぁ、なんてうめぇ水だべ。ちっとんべぇ、かれぇみてぇだが」

    久作は、ささらほうさら、といっては のみ、くるくるぱっぱのカァ、といっては のみ、とうとう よいつぶれて ねてしまいました。

    しばらくして、久作は つめたい風で、目をさましました。

    「やい、こりゃ。おまえ、おれさまの じゅもんを ぬすんだなっ」

    どでかいダミ声に、びっくりして とびおきると、さっきの からす天狗が、におうだちに なっていました。

    「わっ、てんご…さま。おたおた…」

    「おたすけなんぞ、してやらん。こうしてくれる」

    天狗は、手にもった 羽のうちわで、久作のかおを あおぎながら、

    「はなはな、のびろー カァ」

    と、いいました。すると、久作のはなは するするとのびていき、けやきのえだ にまきつきました。天狗は もう一ど、

    「ちょっとだけ ちぢめ、カァ」

    というと、久作のからだは ちゅうづり になりました。

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    「いててて、たた、たすけて…」

    「どうだ、まいったカァ。あのじゅもんを わすれたら、たすけてやる。わすれなかったら このままじゃんカァ」

    「わ、わ、わすれました わすれました。どうかごかんべんを」

    「それじゃ、じゅもんを いってみろ」

    「はいはい、ささら…」

    「そのつぎっ」

    「ささら、おっさら、トットのメ、カッパのヘ、サンショのキ。ほれこのとおり、すっかりわすれました」

    「ふむ、どうやら わすれたようだな。あとで おもいだして、あのじゅもんを つかったら、こんどは、ひぼしになるまで ぶらさげてやるカァ。それに、このことを だれかにしゃべったら、もっと高いえだにつるして、こぶんのカラスどもの えさにしてやるカァ、よく おぼえておカァ」

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    えだからおろされた 久作は、はうようにして にげかえりました。

    「どうしたんだ 久作。もう、夜中だべょ」

    名主どんは、あまりにも 久作のかえりがおそいので、しんぱいして、ねないで まっていました。

    「へぇ、それがその、てんごさま…」

    と、いいかけて、久作は 赤くなったはなを おさえたまま、だまってしまいました。

    「え、てんごさま?。おまえ、天狗になにか されたんかゃ」

    「いんや、なんでもねぇ、なんにもねえってば」

  • 「おや、いきが 酒くせえぞ」

    名主どんに といつめられましたが、久作は、天狗とのやくそくを おもいだして、みぶるいしました。

    「しらねぇしらねぇ、おら、なんにも しらねぇってば」

    名主どんは、ムキになる久作をみて、なにかあったに ちがいない とおもい、酒どっくりを とりだして、

    「まあ いいから、これをのんで、ぐっすり ねたらいい」

    と、ゆのみに なみなみと ついでやりました。

    久作は、一口のんで、すっとんきょうな 声をあげました。

    「あっ、これだ!。名主どん、こすいこすい。この水、あの水だべょ」

    「あの水って、どの水だい」

    とうとう、久作から はなしを ききだしました。

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    よく朝になると、名主どんは 馬にたるをつんで、清水を はこぶことにしました。

    「名主どん、かんべんして くんろい。おらぁ、カラスにつつかれて しにたかねえよぉ」

    久作は、わあわあ なきました。

    「しんぱいするな。天狗は、ひるまは でてこねぇよ」

    そういって 名主どんは、清水のそばの 大けやきのえだを、かたっぱしから きりおとして、まるぼうずに してしまいました。

    「ほら、こうしたら、おまえのはなを ひっかけるどころか、天狗のすわる えだも ありゃしねぇべょ」

    と、大わらいをしました。

    ところが、くんできた清水は、名主どんが いくら じゅもんをとなえても、酒になりません。久作が となえると、酒になります。

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    そこで、名主どんは、久作を ぬすめのむこにして、どんどん 清水を酒にかえて、「清水坂の酒長者」と いわれるほどに なりました。

    久作は、ふってわいた しあわせを 一人じめにしないで、村の人たちにも 酒だるを くばってやったので、みんなは 大よろこびしました。


    からす天狗は、大天狗に さんざんしかられ、あたまを ガンガンたたかれたので、ほんとに クルクルパッパに なってしまい、それっきり、熊川のほうへは とんでこなくなった、ということです。

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お母様へ

●ささら ほうさら

「ささら」は、鍋釜を洗う時に使う竹を細く削って束ねたもので、そのばらばらな様子から、物を粗末に散らかし放題を表現する武蔵野の方言で、更荒(原型は沙羅)からきた、とも言われます。

●熊川

地名の由来を古代朝鮮の百済の熊津(コムナリ)、任那の熊川(クマナリ)との関係で見る説もあります。

また、多摩川を多米川とする説をとると、神→熊、米→熊となり、多摩川と熊川は、異字同意になり、神の川となります。

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